「大丈夫ですか?」
ゆっくり顔を上げると、同じ部署の女性が心配そうに見つめていた。
「あ、ああ、大丈夫です。ちょっと立ちくらみがして。」
そういいながら僕は立ち上がった。
「よかった、△△社の帰りですか?今日暑いから、外回り気をつけてくださいね。」
向かいにある高校は、何事もなくそこにあった。
アマネの姿は、もうどこにもなかった。

僕は、Kに言われたとおり、予習を始めた。
毎回僕らはいち早くゲームをクリアしている。
このシリーズのゲーム内では、少しは名前が知られているはずだ。
Kの行動力と破壊力はすさまじく、とにかくクリティカルヒットを出す天才だ。
僕はといえば、援護系の魔法が多い、「僧侶」タイプのキャラクター。
まあ2人とも、現実とあまり変わらない。

しかし。
「メルト」は今までにないタイプのゲームのようだ。
プレイヤーが設定をあまり選べない。
キャラクターの紹介も8人のみ。
「アマネ」はやはり、17歳の高校生らしい。
「リードクリスタル」は、強く握ってから投げつけると、超能力のような力が使えるものらしい。
見た目はぶどうそっくりで、いたるところに異常発生している。
僕らはそのクリスタルを入手して、ワープやらサイコキネシスやらを使い進んでいく。
進んでいく?
どこへ?
このゲームの結末はどういうものなのだろう。

2017年8月24日木曜日。15時。久しぶりの雨。
どこからかアマネが現れるんじゃないかと周りを気にしながら会社へと戻る。
わざわざ高校の前を通っている自分にちょっとあきれながら。
(昨日見た風景はなんだったんだろう。。)
近代的な作りの校舎は、ゲームの中に出てきてもおかしくない雰囲気だ。
3階の窓に、こちらを見ているアマネを見つけた。
(やっぱり、ここの生徒じゃないか。)
ゲーム好きの女子高生。Kの言うとおりなのかも。
それなら、ゲームの中で彼女に会うこともあるだろう。
その次の瞬間、僕は凍りついた。
校舎の入り口に立っている教師のような男。
彼も「メルト」内のキャラクターにそっくりだったからだ。

21時。僕はKと直接会っていた。
呼び出してきたのはKのほうだった。僕も色々聞きたいことがあったからちょうどいい。
「なあ、どう思う?」
「どうって、仲良くなっちゃえばいいじゃん。アマネちゃんと。」
「そーゆうことじゃなくてさ。現実とゲームが重なるんだよ最近。Kはそんなことない?」
「ない。その子はさ、おまえがゲーム内の『雄平』だって知ってるんだよ。
だから仲良くなろうと思ってメルトの話題ふってきたんだろたぶん。」
「そうは見えなかったけど。。。」
「HN聞いといて、アマネちゃんと一緒に始めればいいじゃん。俺も会いたいし。」
「『メルト』って、情報少なくないか?攻略サイトもないし。」
「確かに。まあわざと謎めいた感じにしてるんだろ。あ、そうそうこれこれ。」
Kは僕に小さな箱を渡してきた。
「当たったんだよ、専用3Dゴーグル。」
「メルトの?」
「そう。」
「モニター1000人ってやつだろ?すごいじゃん。」
「しかも試験的なものだから、作動不良や慣れるまでの時間を考慮して、これつけるプレイヤーは
能力設定高いらしい。」
「へー。Kのもあるんだろ?」
「もちろん。また2人でトップクリアめざそうぜ。」
「そうだな。」
「じゃ、次会ったら聞いとけよ、HN。」
「わかった。」

2017年8月25日金曜日。12時。また35度を越える猛暑だった。
今日彼女に会ったら、おちついて話をしてみようと思う。
あの子は明らかに、僕よりあのゲームについて詳しい。
高校の前の道を通る。「都立山吹高校」っていうのか。初めて知った。
まだ授業中だよな。いや、今は夏休みか?
そうだ、あのぶどう。。シトロンネル。
まだなっているだろうか。
僕はあの小さなやおやを目指していた。

あった。
月曜日よりも、少しやわらかそうに見えた。
もしこれが、ガラス球だったら。。。
僕はそっと、その実に触れようと手を伸ばした。
「採らないでおくれよ。」
ドキッとして振り向くと、やおやの中から小さな老女に見つめられていた。
「ああ、すみません。ちょっと触ってみたくて。」
「そのクリスタルは、もう予約済みなんでね。」
「え?クリスタルって。。」
その時突然、背中に衝撃を感じ、次の瞬間には手をぐいぐいとひっぱられて走っていた。
「ち、ちょっと、何?!アマネちゃん?」
「早く走って!」
そのまま僕は大通りのデニーズまで走らされた。

「あそこのはもうダメ。敵に先をこされちゃった。雄平がグズグズしてるから。」
「はぁ、はぁ。もう何なの君は。よかったらデニーズでお茶でも飲まない?」
「何それ笑」
僕はもうわけがわからず、とりあえずアマネとゆっくり話がしたいと思った結果、そういう発言になってしまった。
しかしそれでよかったらしい。
アマネは笑顔でこう言った。
「じゃケーキも食べていい?」